『木ノ下歌舞伎叢書』創刊!

数年前から「いつかやりたい、いつかやろう」と思っていた事の一つに、木ノ下歌舞伎で〈刊行物〉を出すというのがありました。

そもそも、わたくし、興行にまつわる読み物が好きでして、当日パンフレットは開演前までに全て目を通す派、映画や舞台の販売用パンフレットはよっぽどのことがない限り絶対買う派です。
パンフレットを読んでいると、表現者が観客に、観劇前後に、どのような情報を届けたいのか、観客の観劇体験をどう演出したいのか、表現者の問題意識や関心事などが、「作品とは違った形」で垣間見えて、好きなのです。

あと、雑誌も好きですね。漫画雑誌は『ガロ』、生活雑誌では花森安治編集長時代の『暮しの手帖』のバックナンバーを愛読しておりますし、最近のものですと、『サライ』を不規則に買ってみたり(どうも趣味が団塊の世代っぽい…)。
文芸誌ですと、まず『新潮』、『文藝』、『群像』、『三田文学』、時々『オール読物』あたりは、とてもひと月では読み切れないのがわかっているのに、つい買ってしまいます(余談ですが、『文藝春秋』が時々出す「著名人の弔辞特集号」も好きです)。
また芸能雑誌では、小沢昭一先生の責任編集『藝能東西』(全10号)、関西が誇る素晴らしくマニアックな芸能研究雑誌『藝能懇話』のファンでもあります。最近、調子に乗って関西郷土史研究の金字塔、雑誌『上方』のバックナンバーを合本で全号揃えるという暴挙に出てしまいまして(なんと、みかんの段ボール箱二つ分の重量級!)、置き場所に困っております…。
雑誌って、特集の組み方、誌面のデザイン、写真の入れ方、字体などにそれぞれ工夫があり、これも一種の〈演出〉ですから、いろいろ勉強になりますね。

…いつもの如く、前置きが長くなってしまいました。
つまり、以前から、雑誌的なもの、読み物風パンフレット的なものに、異常に関心があったのですね。好きが高じて「いつか自分もあんなの出したい!」と思っておりました。

そこで、今回、諸々の条件が整い、満を持して、『木ノ下歌舞伎叢書』という不定期発刊物の第一号を出したわけです。

 

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さて、『叢書』発刊に込めた想いは大きく二つあります。

(一)、作品のガイドブックとして

木ノ下歌舞伎では、作品ごとに、約一年かけて、資料収集、その演目の受容史の調査、フィールドワークなど、様々研究を重ねていきます。それらの机上の研究は、結果的に作品に活かされているものの、〈形〉として世に出ることは今までありませんでした。それではあまりにも勿体ない。ですし、そもそも、成果を世に問わないという研究は、独りよがりなものにもなりかねない。何かの形で発表していれば、もし、こちらの研究に間違いがあれば、どなたかから正してもらえる可能性もあるわけで、また、そこから賛否起これば、議論がより深まっていくことだってあるわけです。
だからといって、誌面を論文発表大会のようなカタいものにするつもりではなく、工夫を凝らして、同時に読み物として楽しく読めるものにしていきたい。「私たちは、この作品を作るにあたって、こういう研究をし、このような発見がありました」と伝えると同時に、それを知るとより作品が楽しめるようになる―そのような、作品鑑賞の手引きになるような冊子。〈アカデミックなもの〉に、如何に、楽しく触れてもらうか、知的好奇心をくすぐるようなものになるよう心を砕きたいと思っております。
『木ノ下歌舞伎叢書1 黒塚』では、
木ノ下によるフィールドワークの成果報告を、「『黒塚』福島取材旅行記」というタイトルの紀行文という形で纏めていますし、戯曲の解釈については、「『黒塚』上演台本」の欄外に詳細な註釈をいくつも加えました(そうそう、今回、上演台本を丸々収録しているんですねー)。
また、巻末に、能、文楽、歌舞伎、漫画など、様々な「黒塚物」を紹介するガイドブック的なページを付けたのも、お客様の興味関心が、木ノ下歌舞伎を通過して、ほかのジャンルにまで広がっていけばいいなと思ったからであります。

(二)、創作過程のアーカイブとして
目下、わたくし木ノ下は、博士論文を執筆中なわけですが、そこで痛感しているのは、舞台芸術(または演劇運動)についての資料は残りづらいということです。とりわけ、演出家や主宰者が如何なる問題意識を持ち、何を考え、実際、現場(稽古場や劇場)でどのような作業を積み重ねてきたのか、そのような〈現場の情景〉が垣間見える資料は、本当に稀です。これは、先達の演劇実験の成果が後世に蓄積されないということにおいて、大変勿体ないと思うのです。さりとて、木ノ下歌舞伎如きが、詳細なアーカイブを残したところで、後世、どれほどの役に立つのか、甚だ疑問ではあるのですが、それでも、やはり残さないよりは幾分かマシだろうと思うのです。
『木ノ下歌舞伎叢書1 黒塚』では、
まず、『黒塚』の演出・美術を担当した杉原邦生氏による、舞台美術についての論考を収録しておております。『黒塚』の舞台美術プランが決まった日について軽妙なエッセイ風で綴りつつも、同時に、「木ノ下歌舞伎における美術の発想の仕方」について改めて定義してくれていて、まさに〈キノカブ流・舞台美術虎の巻〉です。
そして、主人公・岩手の舞踊シーンの振付をしてくれた白神ももこさん(モモンガ・コンプレックス主宰)に、歌舞伎『黒塚』の舞踊的側面についての考察エッセイを寄稿していただいております。歌舞伎に様々な疑問・質問を投げかけつつ、「現代の振付家には、こう見える」といった視点でズバズバと〈古典〉に斬り込んでくださってます。
ほかには演出家・杉原氏と木ノ下の対談(初演時のものを再録)し、作品の初期段階の構想が垣間見える内容となっております。
などなど、創作の当事者の〈ことば〉を多く収録しました。
通読していていただくと、それぞれが、どのような視点とアプローチで〈古典〉に向かっているか、その一端をおわかりいただけるのではないかと思います。

以上、二つの志向によって、『木ノ下歌舞伎叢書』を発行したわけですが、引続き、第二号は『三人吉三』を取り上げる予定です。こちらの方も乞うご期待でございます(今年6月発刊予定)。

さて、最後に、やや宣伝めきますが、『木ノ下歌舞伎叢書1 黒塚』は公演中のロビーにて販売中でございます。今回のツアー中に限り、なんと創刊特別価格1000円(通常1200円)でお求めやすくなっております。低予算ながらも装丁もちょっとこだわっております(ちなみに装丁は、木ノ下歌舞伎のメンバーで手分けして、全部手作業、正真正銘のハンドメイドでございます)。

そして、最後に少し自慢めきますが、当初、200部印刷し、せめて全ツアー中でその半分が売れてくれれば…というこちらの予想をはるかに上回り、三重、大垣の6ステージでほぼ完売、慌てて第二版を増刷するという事態になりました。
お買い上げくださった皆様、ありがとうございます!

そうそう、またまた宣伝めきますが、忘れちゃいけないのが、新発売の「木ノ下歌舞伎オリジナル手拭い」!

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これも、前々から作りたいと思っていたのです!
木ノ下歌舞伎のロゴマーク(紋)をモチーフに、杉原氏自らデザインしてくれました。上品な鱗文様になっております。色はシックな紺。品質にもこだわっておりまして、職人さんの手作業による「本染め」(ですから、にじみや色ののり方など、一枚一枚、少しづづ表情が違います)、使えば使うほど風合いが変わり、長く使っていただけるものになっております。
一本1500円。
こちらも合わせて、よろしくお願いいたします!

木ノ下裕一

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