【義経千本桜】俳優インタビュー⑥|武谷公雄

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『義経千本桜-渡海屋・大物浦-』公演に向けて、
出演者の生の声をお届けします。
第六回は武谷公雄さんです。

2016年5月11日 急な坂スタジオにて収録

完コピを重ねて気づいた<感情の伝承>の可能性

今回で『黒塚』『三人吉三』『心中天の網島』に続いて四回目の出演になります。といっても毎回、作品も変われば演出家も変わりますし、初めてご一緒する方も多いので、気付かされることが多いですね。
歌舞伎って、初めて完コピすると、難しいセリフや型をコピーするのが先に立って、役としての辻褄をあわせて感情をつなげていくことがとてもむずかしいんですが、今回の出演者の方は、木ノ下歌舞伎初めての方も多くて完コピ初めてなのに、それが非常に早くてびっくりしました。それに動きや台詞を細かいところまでコピーしてるんですけど、様式にとらわれていなくて、ちゃんと身体と言葉の上に<感情>をのせているから、非常に説得力があるんですよね。
型と感情が繋がるんだとわかった時に、僕たちは歌舞伎俳優ではないから<型の伝承>はもちろんしてきてはいないけど、型を手がかりに<感情の伝承>はできるんじゃないかと思ったんです。というのは、歌舞伎の型といわれる、言葉や言い方って、もともと俳優の生理から生み出されたものだと思うんですね。そのときの生理であり感情のようなものが、体を通して伝承されている。だから僕たち現代人の体でやるときにも、その手がかりになる体の動きや言葉の言い回しを借りると感情がわかる気がするんです。例えば簡単に言っちゃうと、「さよなら」っていうより「さらば」っていったほうが、感情がのりやすいとか。だから型を基に<感情の伝承>は、何百年も変わらずにできるんだなって思いました。

歌舞伎では通用する<情念>の言葉

現代劇をみていると“情念語”、つまり殺すとか好きだとか、そういう情念の言葉が減っているような気がするんです。でも歌舞伎演目の場合、「殺す」とか「愛す」とかの言葉にも、歌舞伎というフィルターがかかりますよね。だから普通にやったら興ざめするところが、歌舞伎の様式や言葉を伴うと成立する。歌舞伎の言葉によって、日常忘れられていることや、言葉のあり方を感じさせられることが多い気がします。

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歌舞伎の歴史をなぞりながら壊す、多田さんの演出

多田さんは壊そうとしてますよね。演目だけじゃなくて歌舞伎というものを、僕たちのできることで。俳優もそれに乗っかって、<俳優の型>っていうものを壊して、現代の体を使って歌舞伎を再創造してる気がします。型って、あくまでも表現するための補助線だと思うけど、多田さんは、型とか、完コピの補助線を疑いながら、歌舞伎の構造からつくり直している。歌舞伎の生まれた背景をなぞりながら壊していっている気がします。どんな渡海屋になるか、僕も楽しみです。

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武谷公雄 Taketani Kimio

1979年生まれ、大分県出身。1999年早稲田大学劇団森に参加。退団後、保険会社勤務などを経て2007年より演劇活動再開。主な出演作品として、岡崎藝術座『古いクーラー』『レッドと黒の膨張する半球体』『隣人ジミーの不在』他、サンプル『シフト』、範宙遊泳『インザマッド(ただし太陽の下)』など。映画『花の名前』(利重剛監督)や企業広告など、映像分野でも活躍している。木ノ下歌舞伎作品には『黒塚』『三人吉三』『心中天の網島』に出演。

所属事務所|プリッシマ
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