主宰木ノ下、思いを綴るー杉原邦生さん編ー

往々にして、わが国では、“エンターテイメントなるもの”と、“批評的なるもの”は、それぞれ志向の異なる、別物として認識されている。杉原邦生さんの作品は、その垣根を軽やかに飛び越え、両者を丁寧に橋渡しするばかりではなく、本来この二つは表裏一体でなければ意味がないのだということに気づかせてくれる。批評なきエンタメはただただ空虚なものであり、エンタメなき批評では人の心を打つことはできない。かつての能狂言や文楽や歌舞伎が人々に愉楽を届けつつも鋭く世相を照射したように、彼の作品もまた、現代社会においてその役割を一身に担っている。古今東西の舞台芸術を貪欲に取り込みながら、自身の演出の抽斗を日々増やしていく貪欲さ、POPさと鋭利な批評性の絶妙なバランス……そういう意味で、まさに日本芸能の〈本道〉を歩もうとする演出家なのだ。
貧困や災害、孤独死や凶悪犯罪など、やるせないニュースを話題にしている時、彼は必ず最後に「ねぇ、この人たちに“演劇”が届く日がくるのかな」と独り言のように漏らす。私はいつも、彼の言葉を無言で受け止めながら、その日がくることを強く願っている。いや、その日がきてくれないと、困る、と思っている。

木ノ下歌舞伎主宰 木ノ下裕一

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