千谷道雄著『秀十郎夜話』(富山房)

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「木ノ下裕一オススメの古典芸能にまつわる本を紹介する企画。
いま読むべき一冊を木ノ下が一言で紹介します!」
(第一回から第二十回はビギナー必見!入門書特集)

こんなにも哀しい本を、私は他に知りません。

千谷道雄著『秀十郎夜話』(富山房)

黒衣や脇役で歌舞伎を支えながらも、普段はなかなか陽の目を浴びない大部屋の俳優。黒衣の名人・中村秀十郎の半生を、その芸談とともに隈なく紹介した本書は、大部屋俳優にはじめて光を当てた画期的なもので、出版当時から随分話題になりました。注目を浴びたばかりに、その後の秀十郎の人生がゆっくり狂っていってしまうという後日談も含めて、報われない俳優たちの姿に涙せずにはいられません。しかし、そのような〈哀しみ〉に支えられて、歌舞伎は今日まで続いてきたのですね。