【東海道四谷怪談ー通し上演ー】俳優インタビュー14|緒方壮哉

『東海道四谷怪談ー通し上演ー』公演に向けて、
出演者の生の声をお届けします。
第14回は緒方壮哉さんです。

2017年4月20日 森下スタジオにて収録

距離感を楽しめたキノカブ初観劇

木ノ下歌舞伎を初めて観たのは、『心中天の網島』(2015)でした。大学に演出の糸井幸之介さんが教えに来てくださっていたので、授業として観に行ったんです。それまで近松(門左衛門)の戯曲を読んだことも、作品を観たこともない状態だったので、ネットで検索したりしながら、観劇前からどんな作品になるんだろうと妄想していましたね。実際に観て意外だったのが、毎回糸井さんの作品を見ると、いい意味で“エモくなる”んですけど、(『心中天の網島』は)歌舞伎っていう文脈があることで、のめり込む反面、引き離される瞬間があったことです。現代ではわからない感覚、例えば心中してしまうとか、当時だからこその感情もあっただろうし、想像してもわからない部分が出て来て。でも糸井さんの音楽や演出で近づける部分もあって……その時は顔が阿修羅のようになる位、複雑な感情が芽生えました(笑)。古典を題材にしているということで、そういう距離を感じるのは面白かったです。その後『義経千本桜―渡海屋・大物浦―』(2016)も拝見したのですが、そっちも一年で一番面白いと思える作品でした。

経験してきた違和感を出力したい

今回出演させていただく『東海道四谷怪談』は、動乱の時代の中の、束の間の休息というか、時代が移り変わる時期が舞台の作品ですよね。いろいろなことが綯交ぜになっているし、武士、庶民、乞食までが混在して暮らしている群集劇で、そこで生きている人たちの目指しているものが集約されていて。偉そうに見える武士だって、行動が一貫していなかったり、現代人と同じようなことを考えていたりしますし。
僕が今回演じる伴助は、上演台本では歌舞伎の言葉がほとんど残っていなくて、現代風の若者になっています。僕も演劇に出会う前は、伊右衛門グループみたいなところにいた経験があるというか……仕切っているリーダーみたいな人がいて、その人の腰巾着になったもん勝ちというような、本当に伴助みたいな時期があったんです。その時、理不尽なことも沢山あって、社会への不満というと大げさですけど、小さい反発というか違和感というか、このまま生きて行くのかと思う時もあって。もちろん時代の違いはありますけど、『四谷怪談』に共感することはありますね。その経験が出力できたらなと思います。でも現代的ではあるんですけど、役をそのまま現代に置き換えたり、自分に近づけすぎると、違うなと思う部分は多々あります。今は相手の芝居を受けるとか、根本的なことを邦生さんが諦めずに見ていてくれるので、自分が何かやろうというのではなく、伴助が作品でどう描かれているかを大事にしたいと思っています。

今、『四谷怪談』を6時間通して観る意味

いまこの2017年て、いろんな意味で勝手に節目の年だなと思っているんです。世界的にも時代的にも。邦生さんと木ノ下さんもおっしゃっていたように、初演をやった時(2013年)は震災の後ということで、ヒリヒリしていた時代だった。そこからさらに時間が経ってどこか冷静になって来たけど、いろんなことが複雑になって世の中が見えなくなっている中で、『四谷怪談』を上演するのはすごく意味があることだと思います。ものすごく大変な時代に生きている人たちの声とか、見えないものを、通し上演で観ていただけるのは、重要な、面白い経験ではないでしょうか。是非、6時間かけて観ていただきたいです。

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