【勧進帳】俳優インタビュー①|坂口涼太郎

『勧進帳』公演に向けて、
出演者の生の声をお届けします。
第一回は坂口涼太郎さんです。

2016年6月27日 急な坂スタジオにて収録

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歌舞伎のイメージを覆されたキノカブ

木ノ下歌舞伎を初めて観たのは、こまばアゴラ劇場で上演された邦生さん演出の『黒塚』(2015)でした。それまで歌舞伎を観たことがなかったので難しいかもしれないと思ったのですが、すごく面白くて大好きな作品になりました。あれだけ濃密な空間で、すごく昔の物語なのに、現代にも通ずる人間の心理がストレートに入ってきたし、ストーリーとしても完成されていて、すごいなと思いました。

感情を理由に、型にあてはめ、型から気持ちを盛り上げる

歌舞伎の「勧進帳」の映像を初めて観たときは何も理解できなかったです(笑)細かいストーリーよりも、型が強いなと思ったり、踊りのかっこよさに目がいったというのが正直なところですね。その後完コピ稽古が始まって、難しかったのは発声です。歌でも演劇のものでもなく独特で、こんなにもできないものかと思いました。歌舞伎の言葉や音程って、なかなか自分の体のなかに入ってこないんです。なので、まず歌舞伎座に行きました!生で観て、発声の仕方がどう舞台空間に溶け込んでいくのかを確かめに行こうと思ったんです。それから、反復するのはもちろんですが、意味、感情を理解するようにしました。そのうちに「この感情だからこの型にしたんだ」とか、「この気持ちになったからこの音にしたんだ」ということを見つけていくことができるようになったんです。感情をもとに、型をあてはめていくという感じですね。型から気持ちを盛り上げていったら、やっとなじんできました。

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変化していく富樫自身と異なる世界の者たちについて

今回演じる<富樫>という人物について、まず完コピで掴んだことは、他者に絶望していて、周りに希望を持っていない、すごく生きづらい人なんだということです。人間関係も、裏切られるのが当然だと思っている。仕事として関を守っているだけで、感情は一切ない。でも弁慶と義経一行との出会いによって初めて、富樫の心は揺らいだんだと思います。でも今、邦生さんの演出がついて、また変わってきています。他者に絶望しているというのは今も同じなんですけど、山伏の詮議も「頼朝様のために」という意識ではなく、ただ上司の命令だからやっている。関にやってくる人を自分より下にみていて、それで仕分けしているし、人が困っていることに快感さえ覚えている気がします。
邦生さんは、役者の個性をものすごく尊重してくれます。演出を決めすぎないというか、全体のビジョンはあるんだけど、まずは役者がどう動くか、どう反応するかをみて、再構築して、どんどん発見していく人だと思います。皆で試して、これがいいねって感じで、ピックアップしてくださる。だからすごく信頼が置けるし、俳優として「僕らはこう思うんです」と提示できる現場です。
『勧進帳』は、どんな時代にでも置き換えられる人の心理が描かれていると思います。結末がはっきりあるという訳ではなくて、出会う前と出会った後で明らかに皆の心が違っているというのが面白いし、違う世界の者同士がぶつかって、さてどうなるかというのが見どころだと思います。人と人が接することによって、世界がどう変わっていくのかを見ていただきたいです。

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坂口涼太郎 Sakaguchi Ryotaro
1990年生まれ。兵庫県出身。主な出演作に、森山未來出演演出ダンス公演『戦争わんだー』(07年)、舞台『ヴェローナの二紳士』(演出:宮本亜門)(14年)、舞台『花より男子The Musical』(16年)など。16年春には出演映画『ちはやふる〈上の句〉〈下の句〉』が大ヒット。舞台から映像まで幅広く活躍している。

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