【勧進帳】俳優インタビュー③|岡野康弘

『勧進帳』公演に向けて、出演者の生の声をお届けします。
第三回は岡野康弘さんです。

2016年6月21日 急な坂スタジオにて収録

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難しい反面、やりがいのある杉原作品

木ノ下歌舞伎には初めて出演させていただきます。杉原邦生君の演出作品に関わらせてもらうのは4回目になるんですが、何がモチーフであっても、「邦生君が面白いと思えるかどうかという基準で創作している」のは共通している気がしますね。その面白さの基準がどこなのか、何を求められているのかを探すのは、毎回至難の技で、回数を重ねても簡単にはなりませんね。ただその考える作業に、やりがいがあります。

歌舞伎の身体を体験してわかったこと

歌舞伎に触れてみての感想はまず、面白い。そして難しい。大学時代に古典の授業もあったんですけど、その頃は真面目じゃないほうの学生だったこともあって…今はその頃と全然印象が違いますね。俳優として「この作品をやるんだ」という目線で見てみると、演技や演出の細かさに気づかされるんです。そのあと完コピを体験するんですが、大変だったのは、まず正座に一時間耐えなければならないことですね(笑)正座以外にも普通に立ってる様な状態が無くて…ずっと大リーグ養成ギブスをつけているようなもので、自分の体を縛っている。歌舞伎をやっている人たちには普通のことなのかもしれないけど、自分と同じ身体感覚が一カ所もなかったです。あと映像を三種類見たんですけど、白黒の、古い時代の記録より現代のものに近づくにつれて、見やすくなっている、と感じました。俳優の体を通しての伝承って、データのコピーじゃないので100%同じようにうつすことは不可能じゃないですか。でもその俳優さんの身体性であったり、その時代のお客さんの反応だったりに影響されて、変わっていくのは自然なことなんだなと。どんなに伝統を守るといっても、変化は絶対あるわけで、そのことをポジティブに受け止めてきたんだろうし、その時代の俳優さんが切瑳琢磨して、ベストのものを作ろうと思ってやってきたんでしょうね。

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<強度>のある作品を目指したい

今回は歌舞伎の台本を基に邦生君が上演台本をあて書きっぽく作ってくれてるんですけど、結構難しいのは「演出家が思う僕と自分が思う僕は違う」ってことですよね。なるほど、やっぱりこう思われてるんだな、と楽しむ感じでやってますけどね(笑)邦生君の演出って、とにかくこねくりまわしていく。一回作ってみて壊して、次はここに絞って、もう一回作って、また壊して、と繰り返していくうちにどんどん道が出来ていく。で、色んな道を踏んで、気づいたらすごく明確な道が残っているという感じです。とにかく役者が試して、邦生君が目の前で見て、「これだ」と納得したものしか積み上げていかない。手探りの時間が長くても、確実に身になるという信頼があるから、そこらへんは苦じゃないんです。

今までは木ノ下歌舞伎を客席でみさせていただいて、どの作品もとにかく強度があるなと思っていました。小劇場でもなかなか類をみないほど、作品が揺るがないなと。色味とか、テーマとか、人物の立たせ方とか、歌舞伎を基にしているからとか色んな要因があると思うんですけど。だから今回も、「強度のある作品」を是非目指していきたいなと思います。

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岡野康弘 Okano Yasuhiro[Mrs.fictions]
1981年生まれ。神奈川県出身。Mrs.fictions所属。同劇団のすべての公演に参加。他にもジエン社、ろりえ、InnocentSphere等、ジャンルに拘らず客演をしている。杉原邦生演出作品はKUNIO11『ハムレット』に続き4度目。俳優以外にも、書き溜めた詩や短文で出場した自作詩の朗読競技会「ポエトリースラムジャパン2015」にて優勝、またフランスで行われた同大会W杯にて準決勝進出するなど、様々な活動を精力的に行っている。