【合邦】出演者インタビュー/内田慈さん

木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が約20ヶ月ぶりに帰ってきました。

2019年の初演から、より進化/深化した増補改訂版に出演してくださるのは、前回から続投となる方々から、本作でキノカブ初登場のニューフェイスまで総勢11名。創作はいったいどんな様子なのか、稽古まっただなかの皆さんを直撃しました。 そもそも歌舞伎や『摂州合邦辻』をどう思っていたか、木ノ下歌舞伎の作りかたに触れた感想、ご自身の役柄について思うこと、上演への意気込み……。『糸井版 摂州合邦辻』を見つめる俳優さんの視点は、作品の世界に私たちを誘う道しるべとなってくれるはずです。


内田さんは歌舞伎にどんなイメージを持たれていましたか

歌舞伎に触れる機会は多くなかったので、知識がないと見てはいけないというか、頭のいい人がみるものなのかな、という偏見がありました(笑)。でも16歳くらいの頃、家族と行楽イベントで銀座に遊びに行ったとき、一幕だけ歌舞伎座でお芝居を観たんですね。そしたら劇場はまるで異空間で、客席も楽しそうだし、自分自身、舞台に注目したまま時が止まった感覚を覚えて……イメージが変わりました。
その後、俳優を志してから歌舞伎の作品に触れることが増え、意外と取るに足らない内容もあるなとか、人の可愛い部分を抽出しているなと思うようにもなって、私がやってきた演劇と変わらないんだな、という印象を持つようになりました。

「摂州合邦辻」に触れたときの印象を教えていただけますか

お話をいただいた時に、玉手の行動原理がわからないということも含め、とんでもない物語だと感じたので、どうしたら<自分たち事>にできるのかを考えました。その結果、「玉手がどこまで計算して動いていたのか」を考えすぎてしまったんです。それで行き詰まってしまい(木ノ下)先生に相談したら、「少し大仰かもしれないけど、玉手御前なりに世界平和を願っていたと考えたらどうだろう」とご助言いただいて。その<世界>っていうのは、玉手の周りの狭い<世界>のことで、この人に幸せになってほしい、そのためには、この人の大事な人も幸せじゃなければいけない。そうやって世界平和が派生していく……だから玉手は自己犠牲というよりも、皆に幸せになってほしくて、あの行動に至ったのではないかと思うようになりました。その過程で、ここで死んだら俊徳丸の特別な人になれるかもしれないとか、お父さんに「武士の娘」として認められるかもしれないとか、美談ではなく人間的な気持ちもあったのかもしれない。死ぬのは苦しいけど、自分を納得させるためにそう理解しようとしたのかもしれませんね。だから全部が計算というよりも、動いちゃった、動かされてしまった、自分でも驚くような何かが溢れ出てしまったのではないかと。そうしたら玉手の行動も、わからないことも含めて受け入れられるようになりました。

『糸井版 摂州合邦辻』[2020] 撮影:東直子 提供:ロームシアター京都

糸井さんの演出や稽古場の様子を教えていただけますか

再演に向けて、糸井さんが変化、深化されているなと思っています。糸井さんのつくられる作品は、感覚的なところや「感じて」という部分が多いので、初演の演出では抽象的な言葉を選ばれることが多かった気がします。でもこの再演は明確な言葉で伝えてくださるので、私たちも共有ができた上で、さらに深めていけるようになって、(作品の)強度が増してきていると思います。全体の信頼関係がどんどん厚くなって、とても風通しのいい稽古場だと思います。

再演の本番へ向けて、お客様へのメッセージをお願いします

この作品はミクロとマクロの視点で同時に描かれていて、普遍的な視点でも描かれているのに押し付けがない、そこがすごく面白いと思っています。俳優陣も、初演で一回立ち上がったものを活かしつつ、新しいメンバーがリスペクトを持った上で新しいエネルギーを注入してくれているので、より作品を掘り下げられている気がします。
初めての通しの時に、糸井さんが「これはとんでもないことになるんじゃないか」と言ってくださったんですけど、俳優として、すごく勇気付けられました。今の時点で、お客様に自信を持ってお届けできる作品になっていると感じています。

2020年10月12日稽古場にて収録


内田慈(ウチダ・チカ)

1983年生まれ、神奈川県出身。日本大学芸術学部文芸学科中退後、演劇活動をはじめる。08年には「ぐるりのこと。」でスクリーンデビュー。その後は映画「ロストパラダイス・イン・トーキョー」「きみはいい子」「恋人たち」「下衆の愛」「葛城事件」「響 -HIBIKI-」「ピンカートンに会いにいく」(主演)など話題作に次々と出演。ダブル主演のひとりを務めた社交ダンスコメディ「レディ・トゥ・レディ」や「ホテルローヤル」「SEASONS OF WOMAN」など公開予定の映画も多数控えている。ドラマでは、日曜劇場「半沢直樹」新シリーズに出演し話題を呼んだ。また、Eテレの幼児向け番組「みいつけた!」ではデテコイスの声を長年担当しておりジャンル問わず活躍の場を広げている。木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』初演では主演の玉手御前を務め、硬軟自在な熱演が絶賛を浴びた。