【合邦】出演者インタビュー/永島敬三さん

木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が約20ヶ月ぶりに帰ってきました。

2019年の初演から、より進化/深化した増補改訂版に出演してくださるのは、前回から続投となる方々から、本作でキノカブ初登場のニューフェイスまで総勢11名。創作はいったいどんな様子なのか、稽古まっただなかの皆さんを直撃しました。 そもそも歌舞伎や『摂州合邦辻』をどう思っていたか、木ノ下歌舞伎の作りかたに触れた感想、ご自身の役柄について思うこと、上演への意気込み……。『糸井版 摂州合邦辻』を見つめる俳優さんの視点は、作品の世界に私たちを誘う道しるべとなってくれるはずです。


木ノ下歌舞伎についての印象を教えていただけますか

単純に面白いなと思っていましたし、自分が所属している柿喰う客の大村くんが『三人吉三』(2014/2015)に出ていて、いいな、かっこいいなと思っていました。僕らが劇団で作っている作品もある意味、様式だったり、配置だったりを大切にしている部分があるので、木ノ下歌舞伎は歌舞伎を現代劇で、と銘打ってやっていて、すごく興味がありました。

完全コピー稽古についての感想を教えてください

……もっとやりたかったですね(笑)庵室のシーンとかを皆さんがやっているのを見ていると、完コピをやることによって、一言、一所作、どんどん掴んでいくのが目に見えたんです。
このタイミングで、三歩で出て、しゃがんで、といった動きの上での制約はありましたけど、不自由さを感じたというよりも、そこにどう至ったかの過程を考える面白さの方が大きかったです。姿勢を保ちながら台詞をいうのも難しかったですけど、歌舞伎の台詞を発するのは、気持ちよくて。リズムがあったり、音楽のような言葉もありましたし、もっと突き詰めてみたいなと思いました。

『糸井版 摂州合邦辻』[2020] 撮影:東直子 提供:ロームシアター京都

次郎丸にどのような印象を持たれましたか

初演で演じられた大石将弘さんのニンもあると思うんですけど、本当は優しい人なんだろうな、と。自分も含め、現代の人が共感しやすいのではないかと思いました。全てのことが、手に届きそうで届かない。かなしさのある人ですよね。
初日に先生からレクチャーで、人間には「生老病死」という四つの苦しみがあるという話があったんです。その中で、病は俊徳丸、老いが合邦や高安、次郎丸は「生(しょう)」の部分を背負うのだと。ただ生まれただけ、その時点で苦しんでいく運命があるという。そこを担っていく役なんじゃないかなと思います。まだ相談中のところもありますが、この人にはこの人なりの何かが一つ一つあったほうが、糸井版としてやる意味があるし、新しく追加された台本の中で変わったところもあるので、よりいろんな視点で捉えられるんじゃないかなと思っています。

糸井演出や再演について思うことを教えてください

糸井さんって曲もそうですけど、すごく身近なところから急にスケールが大きくなったりするじゃないですか。それを行ったり来たりしながら、内側に親子の話とか因果の話が集約されていて、パッと広がる感じがあったんですけど、再演ではよりフワーッと外側に広がっている感じがします。舞台にとどまらず、見ている人たちのところまでいくような。しぼんでいくのかなと思いきや、もっと開け放っていくという。糸井さんって、そういうスケールコントロールがすごいですよね。お芝居のちょっとしたことにもすごく幅があって、言葉にならない言葉をどんどん言ってくださる。それを受けてこっちも考えるという。リクリエーションって、そこがいいですよね。

今年は色々大変でしたけど、状況は変わっても、作品は素晴らしいものになると思います。お客様にも開いていくような作品になる気もしているので、もう一度同じものを体感する喜びを、劇場で味わっていただけたら嬉しいです。

2020年10月6日稽古場にて収録


永島敬三(ナガシマ・ケイゾウ)

1987年生まれ。2008 年、劇団「柿喰う客」に初出演。11年から劇団員として活動。近年は『俺を縛れ!』、『美少年』などで劇団の中核を担う。劇団公演以外では、『ハムレット』『半神』『ふるあめりかに袖はぬらさじ』、TV「仮面ライダージオウ」、「東進ハイスクール」CMナレーションなど活動の幅を広げている。また、一人芝居『ときめきラビリンス』は、自身のライフワークとして上演を続け、本多劇場グループ PRESENTS『DISTANCE』公演でも好評を博した。その他、俳優4人の演劇ユニット「さんぴん」メンバーとしても活動する一方で、“夏葉亭雛菊”として落語にも挑戦している。木ノ下歌舞伎には初参加となる。