【合邦】出演者インタビュー/永井茉梨奈さん

木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が約20ヶ月ぶりに帰ってきました。

2019年の初演から、より進化/深化した増補改訂版に出演してくださるのは、前回から続投となる方々から、本作でキノカブ初登場のニューフェイスまで総勢11名。創作はいったいどんな様子なのか、稽古まっただなかの皆さんを直撃しました。 そもそも歌舞伎や『摂州合邦辻』をどう思っていたか、木ノ下歌舞伎の作りかたに触れた感想、ご自身の役柄について思うこと、上演への意気込み……。『糸井版 摂州合邦辻』を見つめる俳優さんの視点は、作品の世界に私たちを誘う道しるべとなってくれるはずです。


永井さんにとって歌舞伎とはどんな存在でしたか

歌舞伎座に行ったり、シネマ歌舞伎を見に行ったりはしていましたが、お話を見に行くというよりは、歌舞伎役者から立ち上るエネルギーを受けに行くという感覚でしたね。木ノ下歌舞伎は、学生時代から何本も作品を観ていたんです。木ノ下さんの緻密な研究と眼差しがあるからか、演出家の方が変わっても根底にあるものは揺るがずに、作品ごとに全く印象が違っていて、それが面白いなと思っていました。

完全コピー稽古を体験してみていかがでしたか

型があるということが、不自由ではないのだなと思いました。所作や動き、間合いには必ず理由があって、そこから内面を探っていくというか、深く潜っていくような感覚がありました。普段は内側をどんどん探っていくと外側にたどり着く、という工程を辿っているので、いつもと逆でしたが、全く嫌なことではなかったですね。
発見としては、<着物を着ている人間性>というのをすごく感じました。布にくるまれている生活様式の日本人の人格、とでもいうのでしょうか。特に姫は纏っている布の量が多くて重いし、見えているのも指先と頭部だけという状態なので「本当に大事なものは体の奥深くにあって、安易に人の目に晒されないところで育つんだな」と実感しました。その感覚や、思いをこらえるという胆力を鍛えるためのお稽古だった気がします。

『糸井版 摂州合邦辻』[2020] 撮影:東直子 提供:ロームシアター京都

役作りの過程で思ったことを教えてください

浅香姫は実直で、自分の信じるものや愛するものに対して、どこまでもまっすぐに行動していく逞しさがありますよね。大事にしたいのは、姫にとっては、全てが初体験だということです。一方的に別れを告げられるとか、他者から敵意や殺意を向けられるとか、もしかしたら自分が誰かに対して怒りとか大きな憤りを感じることすら初めてかもしれない。16歳ということもあるので、ただ勇猛果敢な女性ではなく、常に心臓がふるふるして、全身で脈を感じている。その中で素直に懸命に立ち向かう、という姿勢を大切にしたいです。それが見えると、一つ一つの言動が愛おしく受け止られるのではないかなと思うので、私の体を通して、そう見えたらといいなと思います。

上演に向けてのお気持ちをお聞かせいただけますか

顔合わせの時に糸井さんが「わかるとか、感じるとかの具合について挑戦したい」とおっしゃっていたんです。その言葉から、初演ではみんなが共感できるということにフォーカスしていたけど、再演では、その人たちにしか分かり得ないことを大切にしていきたいという思いを受け取りました。最近の稽古でも、全員が納得できなくても、当人たちには真実、ということを大事に創作していると感じます。

なかなか人に触れたりすることが難しい時勢になってしまいましたが、舞台をみて少しでも昇華できる体験を、一緒にできればと思います。私たち自身、お稽古している中で抱えているものが少しずつ、空に飛んで行くような瞬間が多々あったので、お客様にもその体験をしにきていただけたらと思います。

2020年10月6日稽古場にて収録


永井茉梨奈(ナガイ・マリナ)

1993年生まれ、富山県出身。2013年 京都造形芸術大学舞台芸術学科入学。フランス演劇に惹かれ、ラシーヌやクローデルの上演に携わる。杉原邦生演出『転校生』、渡邊守章演出『アンドロマック』等に出演。16年 新国立劇場演劇研修所に入所。19年3月 研修所 修了。主な出演舞台に、栗山民也演出『朗読劇 少年口伝隊 一九四五』、田中麻衣子演出『トミイのスカートからミシンがとびだした話』、宮田慶子演出『るつぼ』、KUNIO『グリークス』、『テレーズ・ラカン』など。木ノ下歌舞伎には初参加となる。