【合邦】出演者インタビュー/飛田大輔さん

木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が約20ヶ月ぶりに帰ってきました。

2019年の初演から、より進化/深化した増補改訂版に出演してくださるのは、前回から続投となる方々から、本作でキノカブ初登場のニューフェイスまで総勢11名。創作はいったいどんな様子なのか、稽古まっただなかの皆さんを直撃しました。 そもそも歌舞伎や『摂州合邦辻』をどう思っていたか、木ノ下歌舞伎の作りかたに触れた感想、ご自身の役柄について思うこと、上演への意気込み……。『糸井版 摂州合邦辻』を見つめる俳優さんの視点は、作品の世界に私たちを誘う道しるべとなってくれるはずです。


木ノ下歌舞伎を初めてご覧になったときの印象を教えていただけますか

初めて観劇したのが『東海道四谷怪談―通し上演―』(2013)だったのですが、とても衝撃を受けました。歌舞伎ときくと、身構えるイメージがありましたが、木ノ下歌舞伎の作品は「寄り添ってくれる感覚」があったんです。内容も惰性がなくこだわったもので、上演時間は長かったですが、体感時間は短かったです。6時間もお客さんを拘束するなんてなかなかできることではないので、「こんなにガッツがある団体があるんだ」と感銘を受けました。そしてこの力のある創作の場に身を投じたいなと、観ながら思っていました。

完全コピー稽古についてはいかがでしたか

第一に「できない」ということを実感しました。そのことを理解するための完コピだった気がします。歌舞伎を端的に表現すると「美しい!キレイ!」というイメージがあったんですが、心の機微を細やかに表現している、繊細な芸能だとわかりました。型が入っていればいい訳でもなく、気持ちだけでもいけない、そのバランスで育ってきた芸能なんだなと。あと、表現の仕方も「映(ば)える」(笑)、様式美ですよね。ネガティヴな意味で使う「様式」や「型」ということではなく、確固たる意志を持った、様式美の世界だなと改めて思いました。

『糸井版 摂州合邦辻』[2020] 撮影:東直子 提供:ロームシアター京都

役や再演の稽古で思うことはありますか

今回は平馬という役が加わったので、平馬の存在によって、糸井版の次郎丸というキャラクターに、さらに奥行きが出ればいいなと思っています。メインの役ではないのですが、この付け合わせと一緒だと、美味しい、まずいという、両方の情報をお伝えできる存在になれたらと思っています。あとは舞台美術もシンプルですし、お客様の想像力に任せる部分も多いですが、世界観に説得力を持たせる役回りでいられたらと思います。

糸井さんは皆と同じ目線を持っていて、しかも自分がちょっと見たくない、目を背けている部分までちゃんと見てくれている方だと思います。糸井さんの世界は、全肯定ではなく、否定しない優しさがあると思っています。「愛してる、愛してる!」って言われても辛いじゃないですか。「こうであれ!」ではなく「こうあってもいいんじゃない?」っていう位のラフさがありますし、時にシュールな側面もあって……すごい感性の方ですよね。

本番への意気込みをお願いします

昨今、公演も中止や延期が相次ぐ中、舞台をやらせていただけるのはとにかく嬉しいです。お客様の感覚や舞台の見方も変わっている中で、どう受け止めていただけるのかなというのが、とても楽しみです。
急に飲食店の話になるんですけど、「びっくりドンキー」によく行くんです。ハンバーグももちろんおいしいんですけど、実は「お水」がすごくおいしいんですよ。また行きたいと思いたくなるお店の理由って色々あると思うんですが……役としてそんなお水になれたらいいなと思います。「あのお店ってハンバーグも美味しいけど、お水もおいしいんだよね。また行こうね。」と言われるような存在になれたら、嬉しいですね。


飛田大輔(トビタ・ダイスケ)

1993年生まれ、埼玉県出身。大学在学中より活動を開始。フリーの俳優として国内外の公演に参加。中性的でノーブルな出立ち、洗練された身体性を武器とする。近年の主な出演作に、演劇実験室◉万有引力『奴婢訓』(武蔵野美術大学・ポーランド・香港)、カムカムミニキーナ『猿女のリレー』(座・高円寺1)等。俳優の他に、ダンサー、被写体等活動は多岐に渡る。好きな言葉は「明日は我が身」。木ノ下歌舞伎には2019年『糸井版 摂州合邦辻』で初参加、今回は初演に続いての出演となる。