【合邦】出演者インタビュー/山森大輔さん

木ノ下歌舞伎『糸井版 摂州合邦辻』が約20ヶ月ぶりに帰ってきました。

2019年の初演から、より進化/深化した増補改訂版に出演してくださるのは、前回から続投となる方々から、本作でキノカブ初登場のニューフェイスまで総勢11名。創作はいったいどんな様子なのか、稽古まっただなかの皆さんを直撃しました。 そもそも歌舞伎や『摂州合邦辻』をどう思っていたか、木ノ下歌舞伎の作りかたに触れた感想、ご自身の役柄について思うこと、上演への意気込み……。『糸井版 摂州合邦辻』を見つめる俳優さんの視点は、作品の世界に私たちを誘う道しるべとなってくれるはずです。


木ノ下歌舞伎との出会いについて教えていただけますか

作品をはじめて観たのが、こまばアゴラ劇場で上演された『黒塚』の再演(2015)だったんですけど、それを機に、僕の演劇観がガラッと変わったんです。とにかく自分の思っていた「演劇」という固定概念が、すごくいい形で壊されて、演劇ってこんなに希望があるんだ、演劇をやっていてよかったなと思いましたね。観る前は「歌舞伎を現代劇化するってこういうことなんだろうな」というイメージが漠然とあったんですが、もっとおしゃれで(笑)内容も入ってくるし、これなら現代人に伝わるんじゃないかなと思ったんです。

関わってからは、歌舞伎と演劇は違うものだと思わなくなりましたし、古典の歌舞伎も観るようになって、それを面白いと思えるようになったんですよ。それも自分の中で嬉しいことですね。

完全コピー稽古についてはいかがでしたか

初めて完コピに挑戦したときは、いま何を言っているか、何が行われているかもわからなかったんです。でも短いシーンを繰り返していくうちに、わかっていくことがあるというか……不思議な感覚なんですけど、今まで僕たちはどこかで(現代演劇の俳優として)「型にとらわれずに演じよう」と思っていた節があるんですね。でも完コピ稽古で、制約がある中で動こうとしたり、台詞を言ったりすると、一つ一つに意味があることに気がついたんです。 初演では外側だけコピーするのに精一杯だったんですが、再演では、より自由に、内面をコピーすることを目指しました。達成できたかはわかりませんが、そういう気持ちで取り組んだつもりです。

『糸井版 摂州合邦辻』[2020] 撮影:東直子 提供:ロームシアター京都

その体験を経て演じる役への変化はありましたか

そうですね。僕の役は高安通俊という、俊徳丸のお父さんなんですが、初演よりもかなり要素が増えた気がします。糸井版の、特に再演版は色んな人への目配りがあって、中心にいる人物以外にも悩みや葛藤、愛があるんです。僕は殿様という立場なので、(息子の)次郎丸とその妾の子のことも、どうしたらよかったんだろうとつい思ってしまうんですが、あの二人に対する目線、愛情みたいなものがどこかに残せたらと思っています。

再演の見どころを教えてください

新曲によって、視点がすごく増えましたし、北尾亘さんの振付にも新しい要素が入ってきて、前の曲の歌のエピソードに出てきたほんのちょっとした人物が、他の曲にも当てはまるような仕掛けがあるんです。僕たちは色々な役をやりますけど、その役としても、どこかの部分がちょっとずつ繋がっているような気もしてきて、新しい発見でした。

この作品には今の僕たちにも通じるものがあって、現代社会の問題などもはらんでいるので、お客様も共感できるんじゃないかなと思います。
時節柄、飲みに行ったりということができない分、いつもよりみんなわかり合おうとしていて、稽古場がとても濃い気がします。その結果が本番に出ると思いますし、それを僕も楽しみにしています。

2020年10月1日稽古場にて収録


山森大輔(ヤマモリ・ダイスケ)

1980年生まれ、東京都出身。松坂世代の40歳。大学を休学し、バックパッカーとしてアジア・ヨーロッパを放浪したのち文学座に所属する。主な出演作に、文学座『メモリアル』、ミナモザ『彼らの敵』、FUKAIPRODUCE羽衣『愛死に』(再演)、シス・カンパニー『かもめ』、開幕ペナントレース『ROMEO and TOILET』、KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『オイディプスREXXX』など。木ノ下歌舞伎には2019年『糸井版 摂州合邦辻』で初参加、今回は初演に続いての出演となる。