『勧進帳』公演に向けて、出演者の生の声をお届けします。
最終回はリー5世さんです。
2016年6月21日 急な坂スタジオにて収録
僕のキャスティングは何かの間違いだと思いました(笑)
僕は18年日本で暮らしてますけど、これまで日本の文化に触れたことがほとんどなかったんですよ。京都に住んでいたら「歌舞伎観に行こう!」となるかもしれないけど、大阪に住んでると、NGK(なんばグランド花月)とか吉本を観ようってなりますからね。もともとアメリカにいたときから日本のことが好きだった訳ではなくて、軽い気持ちで日本に来たものですから、歌舞伎なんて頭になかったともいえます。「外国人が浴衣を着たら負けだ!」と思ってましたし。歌舞伎も浴衣も、日本人がやるからいいと思ってたんでしょうね。
今回お話をいただいたときは、中々できない経験だと思って受けさせていただいたんですけど、初めて歌舞伎の映像をみたときは、僕がキャスティングされたのは何かの間違いだと思いましたね(笑)こんなに日本語を喋ってきたのに、これほどわからない日本語は久しぶりで。来日したばかりのときの気持ちを思い出しました。
でも稽古場で邦生さんたちが言葉や話の意味を教えてくれるから、歌舞伎の台詞が言えるようになりました。意味がわからないから、とりあえず音だけ覚えて舞台で言ってみようという作戦は、お客様に伝わってしまうし、自分がわかってないことが絶対ばれるんですよ。だから完コピは意味を考えながら覚えようと頑張るものの、量も多いし頭に入ってこない…という繰り返しで結構大変でした。でも、リクリエーションしている今はそれを経ているから、どんどん意味が入ってくる!だから楽しいですよ。
アメリカ人から見た弁慶や勧進帳
僕の持っている弁慶の情報と言えば、よくあるお寿司屋さんの店の名前というイメージ(笑)あと「弁慶が泣く」というフレーズは何回か聞いたことはありました。でもそれ以上の、義経との関係とか、何をした人とかもさっぱり知らなかったです。
ストーリーはとても面白いと思います。日本人は、弁慶が悩んだ結果、目上の義経を叩くみたいなことで心が動くでしょ?日本人はそういうのが好きだと思うんですけど、アメリカの昔話とはだいぶ違っていて、ちょっと新鮮に感じます。僕らの国は歴史が浅いから、人とかじゃなくて動物の例え話とか、ヨーロッパからきた昔話とかが多いんですけど、人が人のために何かするとか、人の根性がどうのこうのっていう話はあまり聞いたことがありません。
あと、稽古を見ていて思うのは、日本の古い話なのに、<今の日本>と<古い日本>をどんどん混ぜあわせていっているのが面白いですね。
歌舞伎を知らない人でも楽しめる『勧進帳』に
もともとアメリカで、即興コントをやるグループに入っていたことがあって、台本もないし、指示する人もいなくて、結構フリーな感じでやってたんです。だから今の、演出家がいて、皆でつくっていく稽古スタイルは楽しいですね。あと邦生さんが言ったことが実現すると、面白くなるのがすごい。俳優がまずやってみて「今のでええんちゃう?」って思っていても、演出が入ってそれがちゃんと成立すると、なるほどとなるんです。他の出演者の方も、稽古の度にどんどん進化していくから、作品の出来上がりが楽しみですね。
まだこれから稽古が続きますが、歌舞伎を知らない人が楽しめる舞台になったらいいですね。作品に詳しい人にはもちろん楽しい要素がいっぱいだけど、歌舞伎や勧進帳を知らない人でも楽しめる、“木ノ下歌舞伎の勧進帳”になったらいいなと思います。
リー5世 1975年生まれ。アメリカ・オレゴン州出身。2000年より関西在住。2009年からよしもと興業に所属し、数多くのお笑いショーなどに出演。英語の教材、CMなどのナレーションや翻訳業も行なう。あだ名は"京阪沿線の汗かき王子"