【東海道四谷怪談ー通し上演ー】俳優インタビュー16|猪股俊明

『東海道四谷怪談ー通し上演ー』公演に向けて、
出演者の生の声をお届けします。
第16回は猪股俊明さんです。

2017年4月24日 森下スタジオにて収録

知れば知るほど複雑な『四谷怪談』

『東海道四谷怪談』は僕らの年代にとっては常識というか、夏になると必ず〈怪談物〉の映画をやっていましたね。なのでストーリーはわかっていたけど、「四十七士と繋がっている」っていうことは大人になってから、教養で知って。あの人たちは赤穂浪士なんだとか、忠臣蔵の外伝なんだとか、段々わかってきたというよりは混乱してきてます(笑)。毒を飲まされた女性が、最後に亡霊になって出てきて、人魂も出てきたりするので、そういう意味では怪談として解釈できるんですが、運命的な人との出会いとか、出会ってしまったからこうなったという悲劇でもあり、群像劇でもあるというか。ほんの些細なことがきっかけで、いい方向にも悪い方向にも行ってしまう、普遍的な要素のあるお芝居ではないでしょうか。

喜兵衛を見て「あれは猪股だ」と思われたい

(演じる)伊藤喜兵衛については、嫌な意味では「自分もそうだな」と思うところがあります。だって普通お金があったら、人間的に修行を積んだり、徳が高い人でない限り、ああいう風になりますよね。親から相続した金があるからボンボンで育っていて、しかも日常に戦いの場があるわけではなし、楽しみは金と孫。「もっと考えたら?」と言ってやりたいところはありますけど、金を持っていて何でもできる立場だったらああなるのかなと。塩冶家に対して高野家は勝ち組ですし、ある意味アウェイの中、敵陣で好き放題に振舞っている。多分本人にはそんなに悪気はなくて、ただ奥さんの顔が変われば伊右衛門も飽きるだろうと思ってるくらいなんでしょうね。でも喜兵衛って最終的に、孫は好きな人と床入り出来て、自分もそこで幸せの絶頂で殺されて、幸せなんじゃないかなと。祝言の後に寝てしまって、起こされたら痛いも何もわからないうちにスパって殺されて。「えー本当!?」っていう感じの人生ですよね。理想としては、深く考えずに演じて、お客様から喜兵衛が猪股俊明に見えたらいい。猪股が金も出せて、孫が可愛くて、ああいう境遇だったらああなるんじゃないか、と思われたらいいですね。もちろんこれは戯曲だからであって、毒を盛るということまでやらないですけど(笑)。
杉原演出は今回で二回目ですけど、邦生君は自分をゼロにできて、守ろうとしない。行きつきたいところはあるんだろうけど、無防備でいる。そういう演出家は理想的じゃないかな。だから「ああしろ、こうしろ」とは言われないんです。でもあえて言うと、自分たちは演出を付けてもらった方が楽なんですよ。そうされないことは、ある意味俳優にとっては怖いことですよね。今回、どこまでも水のように吸い込んで、行ってみたら水の中だった、邦生君の世界だった、となる気がしています。そう思わせる演出家はあまりいないんじゃないかな。

この時代に生まれたなら観るべき作品

今回、この作品に立ち会えてよかったと思っています。誰も6時間なんてやらないですし、歌舞伎役者を使って作品を作るとかじゃなくて、歌舞伎そのものを自分たちでやる。しかも『東海道四谷怪談』の一部分をやるんじゃなくて、「もともとこういうものをやらなければ嘘じゃないか」と思って通しでやる。木ノ下さんも邦生君も、相当、鶴屋南北を面白く感じた人なんでしょうね。
鶴屋南北は、簡潔な構成と力技で作品を残していく、日本のシェイクスピアだと僕は思うんです。その力技もあって、且つ面白ければ最高だから、少なくとも演劇人は一見に値すべきだと思う。もちろん一般の方も、この時代に生まれた人なら見るべき作品だと思います。

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