【東海道四谷怪談ー通し上演ー】俳優インタビュー18|黒岩三佳

『東海道四谷怪談ー通し上演ー』公演に向けて、
出演者の生の声をお届けします。
第19回は黒岩三佳さんです。

2017年4月28日 森下スタジオにて収録

女性がお岩さんを演じることの意義

初演の時は木ノ下歌舞伎に参加することも、歌舞伎のために書かれている脚本をやるのも初めてだったので、全てが新しく、未知の道を歩んでいくという感じでした。とにかく千穐楽まで突っ走ったなという感じでしたね。作品のことも、どういう時代を描いているのかなど具体的なことは、映像を観たり台本を読むまで知りませんでした。
お岩さんを演じることに対して、プレッシャーはありましたね。同じ人間として、同じ女として、また役者として、お岩さんの悲しみなどを素直に受け取ることはできたんです。でも、それをどうやって表現するかということが難しくて。映像を観たときも、まず「歌舞伎俳優の主役の人が演じる役」ということが先行して、「この役者がやるからこういう形になる」という、“見せ方”の印象が強く残ったのを覚えています。でも型を真似るということではなく、歌舞伎では男性が全ての役を演じるけど、「女の私がお岩さんを演じる」ということに意義を見出して取り組んでいましたね。生身の女である私が演じるんだ、ということを大事にしてやっていたと思います。

表層的ではない、深い強い世界を立ち上げたい

再演すると聞いて、「あ、やるんだ」って。なんというか「来るものが来た」という感じでした。全くゼロだったものが一になったわけじゃなく、ぼんやりとあるものがくっきりと形になったみたいな感じですね。木ノ下歌舞伎初演の『東海道四谷怪談』(2013年)でお岩さんをやらせていただいたことは私にとって凄く大きな衝撃だったんです。初演を終えてから、演技をするとか、役に取り組むとかっていう時には、あの時に受けた感じ、あの時に変わったものをずっと持ち続けています。
『四谷怪談』という作品はすごく不思議で、自分の演技やそのときの役、私が演劇に対して思っている問題や課題みたいなものを、すごく沢山含んでいるんですよね。邦生さんや木ノ下さんの思っていることとイコールではないかもしれないけど、これは江戸時代に鶴屋南北さんが書いた作品で、時代背景も人物が背負っているものも全然違うけど、それを今、2017年に生きている私たちがやることで、どうやって今の私たちが生きている世界と繋げていくか。どう繋がっていったらいいか、どうそこで生きられるのかっていうのが大切な気がします。私たちが生きている世界と、演劇で立ち上がった世界が全然繋がらないと、人を動かすもの、人を元気にさせるものにはならないから。私たちの中から出てくるもので、四谷怪談の世界をどう生きられるのかをお見せしたいです。表層的なものじゃなくて、中から作っていって、より深い、より強い世界を立ち上げたいなと思っています。

毎日の恐ろしさを超えて、見せたいもの

『四谷怪談』は、役者として、いろんなことを、ものすごく試される作品だなと思っています。役を演じるってことはどういうことなのか、私がどういうつもりで取り組んでいるのかを、作品の側からすごく試されている感じがするんです。(木ノ下)先生のレクチャーを聞いて、鶴屋南北さんが、この作品を作った時の“命の賭け方”のようなものを知ってからより強く思います。私たちが見せなければいけないのは綺麗なものだけじゃないので。正直いうと、毎日私は恐ろしくてしょうがないんですよ。でもその恐ろしさを超えて、本番はやって来るので。これまで私たちが稽古で創り上げてきたものを、本番では隠すことなく、曝け出したいと思います。

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