東京芸術劇場Presents木ノ下歌舞伎 『三人吉三』稽古Report(2)

取材・文 尾上そら

中一日を空け、三回目の質問会はGW突入後に行われた。

俳優たちがここまでの稽古でみつけた疑問、台本や役の解釈、歌舞伎のルールや作品の時代背景、作家についてなど知りたいことを木ノ下、杉原両人に縦横にぶつけていく。

この日、時間の大部分を占めたのは、みのすけから投げかけられた「歌舞伎鑑賞経験の少ない、もしくは初めての観客に対し、木ノ下歌舞伎の創作をどうプレゼンするのか、その指針を知りたい」という大きな質問に対する対話だ。

木ノ下は「作中に(歌舞伎の)マニアと初心者、両方が楽しめるフックを作っておくことはどんな作品の時も常に考えること。特に今作の場合、前半部の人間関係が非常に込み入っているので、場面を組み替えるなど整理し、説明不足に感じるところを補うなど手を加えた。台詞の現代語訳や現代の観客に訴求するビジュアルのつくり方は、演出の杉原さんの担当。ざっくり言うとマニアック担当・木ノ下、メジャー担当・杉原さんですが、二人とも相手の担当にも興味や知識があるので、そこは話し合いながら行く先を探していく感覚です」と言い、杉原も「江戸時代、歌舞伎を楽しんでいた当時の人々の興奮を現代に蘇らせたいとよく木ノ下センセイは言っている。その想いは僕も大いに共感するところ。『三人吉三』は当時の人たちにとって、“ちょっと詩的でフォーマルな言葉で綴られた口語劇”として楽しまれていたと思うんです。だから、現代のお客様にも僕たちの『三人吉三』を日常の地続きで楽しんでもらいたい。15年版の上演から引き継ぐコンセプトとしては“現代の東京の下には江戸が眠っている、地層のように重なり繋がっていて、僕らはその上に立っている”というビジョン。東京芸術劇場 プレイハウスの舞台機構を使ってそれを視覚的に表現したり、台詞はもちろん音楽や衣裳などもより現代のテイストとミックスして、お客様がいろんな視点から作品世界に入り込めるような演出にしたいと考えているんです」と続ける。

みのすけは、さらに「木ノ下歌舞伎を経験している俳優たちは、現代劇との違いをどう体感し、どんな手応えがあったか感想を聞きたい」とオーダー。キノカブ常連の一人、武谷はコクーン歌舞伎で観た『三人吉三』の感想を引きながら「複雑な血縁、人間関係などはよく理解できていないのに、最後は感動して泣けてしまった。演じる側になってみて理解できたのは、木ノ下さんも仰っていた百両という金と、それにまつわる人の強い想いが絡み合って回る物語だということ。その想いがちゃんとリレーできれば、歌舞伎の素養の有無に限らず、ちゃんとお客様に伝わるという実感がありました」と熱く語る。

続く田中は「難しいのは、ただ人物を演じるだけでなく“役や作品とどういう距離感を持つか”ということ。そこで頭を悩ませた分、ダイナミックに人間を表現するという高みまで手をのばせる感覚があるんです。芝居以外の部分まで含めどれだけ情報を詰め込めるか、喋ったこと以上のものをいかに舞台上に生み出せるか常に考え続ける。それが木ノ下歌舞伎ならではの醍醐味と苦労だと思います」とロジカルな話しぶり。

メインの役が幼い鉄之助役の森田は「今作での自分のパートは、現代との接点というより親子の情愛など普遍的なことを表現するもの。時代を超え、ずっと変わらないものを感じながら演じられたのが大きかった」と言い、高山が「調べたり学んだりが多いのが木ノ下歌舞伎ならではの時間。その結果生まれた表現に対し、お客様の情報や知識によって反応がそれぞれ違うのも特徴的ですよね」と続ける。「上演中の反応によって、その日の客席にどのくらい歌舞伎好きの方がいらっしゃるかわかるんですよ」と木ノ下が笑いながら補足した。

大きな質問が出たことで、これから創作がどこへ向かうか、何をめざすべきかがクリアになった1時間余り。オンラインの距離を、ものともせぬつくり手たちの「想い」の強さが鮮やかに浮かび上がる。この後の見通し、劇場として考えていることや対応などプロデューサーからの説明があり、稽古は終了となった。

それから一週間、GWが明けたところで『三人吉三』の公演中止が正式に発表された。緊急事態宣言も解除されぬまま、本式の稽古も難しい状況での創作には無理があるとの判断。現場の方々の無念は推して知るべきものだが、同時に見学した稽古の片鱗がいくつも脳裏に過ぎり、新たな俳優たちとの出会いを含む、そこにある多くの可能性は必ず「次」に繋がるものだという希望が、悔しさの先に光明として灯っていると思えた。

公演は果たせずとも、この稽古の時間は木ノ下歌舞伎の歩みに新たな道程を加えるもの。それが何処へたどり着くものか、引き続き追いかけたい。

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